悩ましきは文字入力

危機が迫る中、目にも留まらぬ速さでキーを叩き、叩きながらセリフを喋る。
クライマックスシーンによく目にする光景です。

現在までに、様々な文字入力手法が試みられていますが、最もよく使われているのは“QWERTYキーボード”でしょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/QWERTY%E9%85%8D%E5%88%97

クワーティについては「速く打ちすぎると機構が絡まってしまうので、速く打てないように配列した」などとよく言われるように(これはデマであるとも言われています)、このキーボードの文字配列は実に覚えにくいものとなっています。
もう一つの問題は、このキーボードはあくまでも英文またはラテン言語に特化したものですから、日本語に当てはめるには、どこか無理があることです。

皆が習得したものを変更することは難しい

しかし、既に世界的に事実上の標準(デファクト・スタンダード)になってしまった手法は、たとえそれが非合理であったとしても、変更することは著しく困難です。
新手法が大変に合理的であると仮定しても、現在、事実上の標準がある以上、人は両方の手法を覚えねばなりません。
普段の環境では新手法を心地よく使用しているとしましょう。しかし、出先では、デファクトスタンダードのものを使わないといけない。
これは結構なストレスです。

例えば、日本語の入力に特化したキーボードとして、今でも熱狂的な支持を集めているものに、「親指シフトキーボード」があります。
このキーは、QWERTYとの共存を維持しつつ、仮名文字を1回のタイプで1文字入力できるようにする工夫がなされています。

「仮名文字を1回のタイプで1文字入力できるようにする工夫がなされています。」という文章をローマ字入力してみますと、「kanamojiwo1kainotaipude1mojinyuuryokudekiuruyounikuhuusareteimasu.」となりまして、変換キーなどを除いても66タイプが必要となります。
これを親指シフトならば、39タイプでいける。40%以上のストローク減ができるわけです。

これほど合理的なキーボードですが、結果的にシェアを取れませんでした。繰り返しますが、このキーボードはQWERTYを否定していない。英文ではQWERTY配列なのです。
デファクトスタンダードをひっくり返すのはかくも難しいことなのです。

音声入力はキーボードに取って代わるか

音声入力は、とても便利です。QWERTYキーボードの入力すら学ぶ必要がありません。普段の通りに喋ればよいのです。
音声入力にはいくつかの問題があるように思われます。

意外に体力を使う

ボイストレーニングを受けたことがある方ならご存知でしょうが、発声のためにはある程度の基礎体力が必要です。
声を出すには心肺を動かし、舌をコントロールし、口の筋肉を自在に操らなければなりません。キーボードを叩き続けるのももちろん大変ですが、発話も体力を使います。

場合によってはキーボードの方が速いことがある

以下はスタートレックで、データ少佐がアクセスコードの入力をするシーンです。

アクセスコードですから、意味のない文字の羅列となりますので、入力に使う言葉の音節が長くなる、というケースです。
もちろん、意味のある言葉の場合は圧倒的にキーボードの方が遅いのは間違いありません。

修正の手法が確立されていない

音声入力の場合、入力者が意図していない結果が生まれる場合があります。
例えば、上の文章をMACの音声入力機能を使って入力してみましょう。

有力者が意図していない結果はあまり変わりがあります

これは少しヒドイですね。
さて、これを修正するインターフェースはどのようなものであるべきでしょうか。
手法を考えるとき、人間同士ならどうしているか、と考えてみればいいかもしれません。
「有力者じゃない、入力者!」と言うでしょうか。
シンプルに「入力者」と、ゆっくり言ったりするかもしれません。
機械は最初に聞いた音と、「にゅうりょくしゃ」という言い直しとに近い音を探し、差し替えてくれる、というのは比較的簡単に実現できそうです。

では、「結果が生まれる場合がある」はよい表現ではないな、「結果になってしまう場合がある」に差し替えたい、というときはどうしましょう。
「結果になってしまう場合がある、にしよう」などと言えば、人間同士ならなんとかなりそうです。
人間なら、文脈を考え、「にしよう」の部分は文章ではなく、自分(筆記者)への語りかけだと分かるからです。

将来の音声入力装置は、少なくともその程度の判断力を備える必要があるようです。

周囲に音が漏れる・周囲の迷惑となる

皆さんは、周りではっきりと聞き取れるような会話がなされている場で、冷静に文字入力などをすることができるでしょうか。
これは訓練なのかもしれませんが、音声による情報が周りに流れている中で、自分の世界に入って正確に発話し続けるのは、なかなか大変です。
オフィスで複数のオペレーターがいて、それぞれが、音声入力をしている、という環境は、決して好ましいように思えません。
また、入力中のテキストが音声となって周りに漏れている、というのも、内容によっては好ましくないでしょう。

音声入力がスタンダードとなるには、入力中に遮音壁の役割を果たす、何らかの技術が必要となるでしょう。

それでもキーボードから抜け出す必要がある

とは言え、私達は何らかの方法で、既存のキーボードから抜け出す必要があります。
QWERTYキーボードは、30センチ程度の幅のある板状のスペースを要求し、これを安定して使用しようとすると、膝の上とか机の上とか、とにかく固定された場所を必要とします。
モバイル時代となっても、歩きながらの入力は極めて難しい、あるいは限定される。これがQWERTYキーボードの限界です。

これについて、面白い試みを発見しました(製品化されています)

TAPの試み

動画は、TAPという製品のものです。

https://www.tapwithus.com/

指が何かを叩いたときの振動を検知し、指の組み合わせをキーボード入力に変換してデバイスに伝えます。
指は5本しかありませんので、何文字までいけるかわかりませんが、この手法であれば、キーボードのスペースは不要となるでしょう。

画期的なものではありますが、過去にQWERTYの牙城を崩そうとしてきた先人たちと同じ道を行ってしまうリスクは当然あります。
動画を見れば分かるように、習得のための訓練が欠かせず、すでにQWERTYをマスターしている人には苦痛でしょう。
しかし、QWERTYにはできないことが、これで実現できる。
要は、トレーニングにかかるコストに見合った大きなベネフィットがあることが大事でしょう。

願わくば、TAPが新たな道を切り拓いてくれることを祈っています。

投稿者: holo_admin